
規制緩和と地方創生の矛盾、大店立地法がもたらした地方経済の光と影
地方を疲弊させた政策と、今度はそれを「救済」しようとする政策。この皮肉な構図の背景を探る
はじめに、規制緩和が描いた地方の未来
<p>日本の地方都市を歩けば、必ずと言っていいほど目にするのが「シャッター街」と呼ばれる商店街の姿である。シャッター通りとは、商店や事務所が閉店・閉鎖し、シャッターを下ろした状態が目立つ、衰退した商店街や街並みを指す言葉で、中心市街地の空洞化現象を表すキーワードの一つとして、地方では1980年代後半頃から顕著化している。</p> <p>その一方で、郊外には巨大なイオンモールやショッピングセンターが次々と誕生し、イオンモールは日本国内に168施設を展開している。この劇的な変化をもたらした転換点こそが、2000年に施行された大規模小売店舗立地法(大店立地法)である。</p>
大店法から大店立地法へ、規制緩和の潮流
<h3>規制の歴史とその変遷</h3> <p>1973年に制定され、1974年3月1日に施行された大規模小売店舗法(大店法)は、「消費者の利益の保護に配慮しつつ、大規模小売店舗の事業活動を調整することにより、その周辺の中小小売業者の事業活動の機会を適正に保護し、小売業の正常な発展を図ることを目的」とした法律であった。</p> <p>しかし、この法律に大きな変化をもたらしたのは「外圧」だった。この法律を改正し、さらに廃止に追い込んだのは、日本国内の大手流通企業ではなく、日本市場の開放を求めるアメリカ合衆国連邦政府の「外圧」であった。日米の貿易格差を縮小する目的で行われた日米構造協議において、1990年2月にアメリカ合衆国が「大規模小売店舗法(大店法)は非関税障壁で、地方公共団体の上乗せ規制条例を含めて撤廃すべきだ」と要求した。</p> <h3>法改正による劇的な変化</h3> <p>合意を受け、1991年に行われた大規模小売店舗法の改正で、これまで商工会議所(商工会)に置かれて、大型店の出店を扱っていた商業活動調整協議会(商調協)が廃止されることとなった。これ以降、大店法の運用は大幅に緩和され、各地で大規模なショッピングセンターの進出が進むこととなる。</p> <p>そして1998年、大型店を規制する考え方から転換し、大型店と地域社会との融和の促進を図ることを目的とし、店舗面積等の量的な調整は行わない「大規模小売店舗立地法」(大店立地法)が成立し、この新法により「大店法」は廃止されることとなった。</p>
規制緩和がもたらした地方の変貌
<h3>郊外型大型店の急速な拡大</h3> <p>本法は、大規模商業施設の店舗面積の制限を主目的とした大店法とは立法の趣旨が異なり、大型店と地域社会との融和の促進を図ることを主眼としている。このため審査内容も主に、車両交通量など出店による周辺環境の変動に関するものとなり、大店法時代とは異なり、出店自体については審査を受けなくなった。</p> <p>この規制緩和により、郊外への大型ショッピングセンターの出店が一気に加速した。2024年末現在の総SC数は、3,037に達している。これらの施設は車でのアクセスを前提とした設計となっており、広大な駐車場と豊富な商品ラインナップで家族連れを中心とした顧客を集めている。</p> <p><img src="https://storage.ammver.com/blog/images/s-2.webp" alt="郊外型大型店の急速な拡大のイメージ画像(AIで生成)"></p> <h3>中心市街地の空洞化</h3> <p>その影響は既存の商店街に深刻な打撃を与えた。地域経済が全体としては回復に向かっている中、回復の明らかに遅れている業種・地域の1つに中心商業地域、中心部の商店街があげられる。例えば、内閣府「景気ウォッチャー調査」の商店街DIをみると、全国からの遅れが目立つ。今景気回復局面では、全国・全産業と比較すると、平均して5ポイント程度の遅れを取っている。</p> <p>具体的な事例として、イオンモール松本ができたのは2017年のことで、170の専門店を持つこの施設がすぐに「街のにぎわいの中心地」となった一方で、地元紙『信濃毎日新聞』によれば、イオンモール松本の周辺商店街や住宅街は空き店舗や空き家が増え続けている状況が報告されている。</p>
シャッター街問題の構造的要因
<h3>複合的な衰退要因</h3> <p>地方の商店街が衰退した最大の原因は、人口減少とそれに伴う消費の低下である。特に地方では、若者が都市部へ移住し、高齢化が進む中で、地元の商店街への来客が減少している。また、インターネットショッピングの普及により、地域密着型の商店の需要が大きく減少した。</p> <h3>商店街特有の構造問題</h3> <p>商店街の特色として、店舗は住居と兼ねている場合が多くある。すなわち、店主とその家族は1階で店舗を構え、店の奥または2階で住居を構え暮らしてるのだ。廃業しシャッター店舗となっても、中では今も人が住んでおり、1階の店舗を貸し出すことができないため、常時シャッターが閉まっている、ということなのである。</p> <p>この構造的問題により、商店街の店舗兼住居は店主の所有物であるため、店舗部分を貸し出さなくても、それで住むことさえできていれば、誰も困らない状況が生まれ、商店街の活性化を阻害する要因となっている。</p>
自民党政権下での政策転換
<h3>地方創生政策の登場</h3> <p>皮肉なことに、こうした地方経済の疲弊を受けて、2014年に自民党政権は「地方創生」政策を打ち出した。安倍政権が2014年に打ち出した「地方創生」では、同年に施行された「まち・ひと・しごと創生法」によって、「地域の持続的な発展を目指し、地域内の人々がその土地で安心して暮らし、働き、育てることができる社会を創り上げること」が掲げられてきた。</p> <h3>石破内閣による地方創生2.0</h3> <p>2024年、10月1日に発足した石破内閣において、石破茂総理は4日午後、衆参両院の本会議で、内閣発足後初めてとなる所信表明演説を行った。その演説の中で「地方こそ成長の主役」と述べ、「地方創生2.0」として再起動させると宣言した。これらを実現する政策として、地方創生の交付金を当初予算ベースで倍増させた上で、「新しい地方経済・生活環境創生本部」を創設し、今後十年間集中的に取り組む基本構想を策定すると述べた。</p>
交付金政策の実態と課題
<h3>地方創生交付金の概要</h3> <p>地方創生交付金とは、「地方創生」を後押しする目的で、地方での暮らしを展開している、あるいはしていく予定のある自治体に対して、国や地方自治体などが交付する資金です。2014年に新設された制度で、全国の自治体が自主的・主体的に行い、かつ先進的な事業を継続して支援するために創設されました。</p> <h3>過去の政策への反省</h3> <p>しかし、これまでの地方創生政策には深刻な構造的問題がある。例えば産業クラスター政策は、立ち上げ期の第Ⅰ期(2001~2005年度)、成長期の第Ⅱ期(2006~2009年度)、自律的発展期の第Ⅲ期(2010~2020年度)に分けて実施される予定であった。しかし、2009年7月に実施された民主党政権の事業仕分けにより、2010年度以降は民間事業へ移行することが決定し、政府事業としてはⅡ期で終了となった。政府事業終了後にプロジェクトの継続調査をしたところ、24あったサブプロジェクトの内、政策の理念の通り継続しているものは4プロジェクトに過ぎなかった。</p> <h3>政策効果への疑問</h3> <p>石破茂総理とともに、鳥取県の集落をともに行脚した片山善博・元鳥取県知事は、自民党新総裁に石破氏が選ばれた翌日の2024年9月28日に、石破茂総理に対して、国が主導して補助金を出し、全国一律に各地域を引っ張る「地方創生はもうやめるべき」であり、「財政面も含めて地方の自主性に任せるべき」という提言をしている。</p>
自己矛盾する政策体系
<h3>「加害者」が「救済者」を演じる構図</h3> <p>ここに明確な政策矛盾が浮かび上がる。2000年の大店立地法制定を主導した自民党政権が、その結果として生じた地方経済の疲弊に対して、今度は「地方創生」を掲げて補助金で対処しようとしている構図である。</p> <p>規制緩和により大型店の自由出店を促進し、地方商店街の衰退を招いた政党が、今度はその「救済」を謳っているのである。これは政策の一貫性や責任の所在という観点から重大な問題を提起している。</p> <h3>根本的解決策の欠如</h3> <p>新たに施行される大店立地法は、中小企業者の保護を目的とする大店法とは異なり、地域環境の保持を目的とする社会的規制である点に特徴があるが、実質的には大型店出店への歯止めとしては機能していない。</p> <p>地方創生政策も、国による財政的支援がなくても、地域経済を成長させていくエコシステムを回していけるかが今後試されると言えようと指摘されているように、持続的な効果に疑問が残る。</p>
今後の展望と課題
<h3>真の地方再生に向けて</h3> <p>地方経済の真の再生には、単なる補助金のバラマキではなく、構造的な改革が必要である。地域の商店街へ若い世代が買い物に出かけることはあまりありませんでしたが、ここ数年、若い世代向けの店舗が増え始めている商店街も多く、商店街の活性化が進んでいるところでは、店舗の新陳代謝が行われていますという成功例もある。</p> <h3>政策の責任と継続性</h3> <p>今後、少子高齢化などにより、急激に経済が縮小し、雇用の場がなくなりつつある地方において、過去の政策の検証と責任の明確化、そして持続可能な地方経済システムの構築が急務となっている。</p>
結論、政策の一貫性と責任の所在
<p>大店立地法による規制緩和は確かに「競争の活性化」をもたらしたが、その結果として地方の中心市街地は深刻な打撃を受けた。現在の地方創生政策は、この問題に対する対症療法的な側面が強く、根本的な解決には至っていない。</p> <p>真の地方再生のためには、過去の政策の功罪を正面から検証し、持続可能な地域経済モデルの構築に向けた抜本的な政策転換が必要である。単なる補助金頼みではなく、地域の自立的な発展を促す仕組みづくりこそが、今後の地方政策の核心となるべきであろう。</p> <p>地方を疲弊させた政策と、その救済を謳う政策。この矛盾した政策体系の中で、真に地方の未来を考えるならば、政策の責任の所在を明確にし、持続可能な地方経済の在り方を根本から見直すことが求められている。</p>



















